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最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)744号 判決

上告人

石垣食品株式会社

代理人

岩谷元彰

被上告人

日本電建株式会社

代理人

小山内績

ほか一名

被上告人

藤川富久

ほか一名

代理人

葛西千代治

主文

原判決中上告人の予備的請求に関する部分を破棄する。

右部分につき本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

上告人のその余の上告を棄却する。

前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩谷元彰の上告理由は別紙のとおりである。

原審における上告人の主張によると、昭和二四年に、特別都市計画法に基づく土地区画整理の施行者たる青森県知事から、当時訴外樋口喜一郎が所有していた分筆前の青森市大字浦町字橋本一三一番九宅地一六九坪に対する換地予定地として、第一審判決第四目録記載の土地一二〇坪五合が指定された(右換地予定地は、土地区画整理法の施行された昭和三〇年四月一日以降は、同法三条四項による土地区画整理事業の施行として同法九八条に基づいて指定された仮換地とみなされる。同法施行法五条、六条参照)。が、その後、前記樋口は、右従前の土地一六九坪から、一三一番一〇ないし同番一三として合計一二七坪七合六勺の土地を順次分筆して他に譲渡し、一三一番九として残つた従前の土地は、訴外釜萢を経て、昭和三五年二月一一日に、代物弁済により上告人の所有に帰した、というのである。

ところで、仮換地(換地予定地というべき場合を含む。以下これに同じ。)の指定が効力を生ずると、従前の土地の所有者は、使用収益を開始すべき日が別に定められた場合を除き、仮換地について所有権と同じ内容の使用収益権を取得し、従前の土地に対する使用収益権は停止されるが、仮換地の指定に伴つて生ずるかかる効果は、その後に従前の土地の所有権が譲渡された場合には、譲受人によつて当然に承継される(土地区画整理法一二九条参照)。そして、このことは、仮換地の指定後、従前の土地が分割譲渡され、所有者を異にする二筆以上の土地となつた場合においても、異なることなく、分筆前の従前の土地について指定された仮換地に対する使用収益権を、分筆後の各土地の所有者が取得するものと考えるべきである。もつとも、この場合に、分割された従前の土地の所有権に基づいて各自が使用収益権を専有するものと主張しうべき仮換地の範囲を具体的に確定するためには、仮換地の指定権者たる施行者から各筆に対する仮換地を特定した変更指定処分を受けることを要し、その変更指定がされるまでは、各所有者は、分筆前の土地に対して指定された仮換地全体につき、従前の土地に対する各自の所有地積の割合に応じ使用収益権を共同して行使すべき、いわゆる準共有関係にあるものと解するのを相当とする。

叙上の見解に立つて本件を見るに、上告人の主たる請求は、分筆前の一三一番九に対して指定された仮換地のうち第一審判決第一目録記載の二九坪四合が、上告人が譲渡を受けたという分筆後の同番の宅地四一坪二合四勺に対応するとして、仮換地中の右特定部分に対する使用収益権が、施行者からの仮換地変更指定をまつまでもなく、当然に上告人の専有に帰したとの見解に立つものと解されるから、その前提において失当であり、主張自体理由がないものといわなければならない。したがつて、原判決中右請求を排斥すべきものとした部分は結局正当であり、上告論旨は原判決の右結論に影響のない事項に関するものであつて、採用に値せず、右部分に関しては、本件上告は棄却されるべきである。

一方、上告人の予備的請求は、その主張にかかる前記事実関係のもとにおいて、上告人が、分筆前の従前の土地に対して指定された仮換地全体につき、前叙のような使用収益権の準共有関係にあることを前提とする趣旨と解することができる。ところが、原審(第一審判決引用)は、分筆後の一三一番九宅地四一坪二合四勺については、昭和三四年九月一四日に、当時の所有者であつた前記樋口から、換地の交付を受けないで金銭をもつて清算することに対する同意がなされており、右土地の譲渡を受けたという上告人もその同意の効果を否定しえない旨を判示し、そのことからただちに、右土地の所有者であることによつては、仮換地上の使用収益権を主張するに由ないものとして、右予備的請求も失当であると判断している。しかし、原判示の同意によつては、施行者が換地計画において同意した者の所有地について換地を定めないで金銭により清算することと定めることができるという効果を生ずるにとどまり(土地区画整理法九〇条、九四条参照)、これによつて施行者が拘束されるものではなく、まして、右同意(あるいは、同意の認定根拠として原審の判示するような同意書や分筆異動届が提出受理されたこと)により、さきにされた仮換地の指定が変更され、従前の土地の所有者が有していた仮換地上の使用収益権が消滅するものとすべき理由は、到底見出しえない。してみると、原判決は、上告人の予備的請求の前提とするところと解すべき前叙のような使用収益権の準共有関係が存在しないとするにつき、首肯するに足りる理由の判示を伴わないものというほかはなく、右請求を排斥すべきものとした部分については、原判決は、法令の解釈を誤り、ひいて理由不備の違法をおかすに至つているものといわなければならない。よつて、右請求に関する部分につき、原判決は職権による破棄を免れず、右請求の成否についてはさらに審理を尽くすことを要することが明らかであるから、この部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、民訴法三九六条、三八四条、四〇七条一項、九五条、八九条に則り、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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